映画館でのグラフィックに関するあれこれ
Creative Member DESIGNチーム
最後に映画館に行ったのはいつですか?
ストリーミングサービスが普及し、自宅で映像作品を手軽に鑑賞できるようになった昨今、劇場へ足を運ぶ機会は減っているかもしれません。しかし、久しぶりに映画館へ訪れてみると、沢山の刺激で溢れていることに気付かされます。今回は、グラフィックデザイナーと観客としての目線で、劇場で記憶に残った作品や、目に留まったことなどを記録してみたいと思います。
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劇場で初めて今作のポスターを目にした時、素敵なデザインだなと感じ入りました。奥行きのあるフィルム撮影の画の上に、言葉が弧を描いており、文字の間隔はバラバラ、コピーライト文もガタガタの様相。でも離れて眺めると、まるでキラキラした太陽や光の粒のようです。
上映の最後、制作関係者の名前が流れるエンドクレジットの中で、今作が制作されるきっかけのひとつになった「ぼくのお日さま」という楽曲が流れるのですが、歌詞と共に映されるその映像を観て、思わず膝を打ちました。前述のグラフィックデザインの制作意図が、万人に伝わる映像として機能しているんです。内容に触れるので多くは書きませんが、未見の方は是非映画を観てみてください。観客に誤読をさせず、一つの意図を確実に伝えるという意思を感じました。
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「ナミビアの砂漠」
「ナミビアの砂漠」には複数のキービジュアルが採用されていますが、共通して使われている「指紋」のようなモチーフが印象に残りました。
この映画の中に指紋の話は出てきません。では、指紋が表現しているものは一体何でしょうか?
指紋は本人証明の一つであるため、主人公の社会的な一側面を表していると受け取れるかもしれません。
もしくは、うねうねとした不穏で怪しい模様から、主人公の混沌とした状況を受け取れるかもしれません。
劇中で主人公は、スマホで「ナミビアの砂漠」の映像を眺めているので、スマホについた指紋を表している、と受け取ることができるかもしれません。色々な意図が汲み取れそうで面白いですよね。
今作の感想を調べてみると、人によって受け取り方がばらばらで、とても興味深かったです。
理解の深さや浅さではなく、観る人の環境、立場、視点などによって、鑑賞後に出てくる言葉が全く異なるようでした。
一つの正解があるのではなく、はっきりとは分からない、どちらとも言えない余白を残すことは、作品が広く開かれているということなのかもしれません。未見の方は是非一度ご覧下さい。
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「ブルータリスト」
今作は、始めと終わりにクレジットが流れるのですが、タイポグラフィの扱いがとても印象的です。定型的なスタッフロールではなく、モーショングラフィック等でもない、「グラフィックデザイン」が主体になるような映像でした。ぎょっとするような角度のスライド、美しい撮影と書体を中心に構成された画は圧巻で、映画本編を前後で挟んだクレジットが、作品の質を大きく引き上げていました。
劇場では、三つ折りの冊子が入場特典で配布されました。今作に関わるグラフィックは、すべて過去のテイストに寄せて作られているようです。内容に触れるため詳細は伏せますが、冊子そのものが、劇中のとあるシーンにまつわるものになっているんです。作品を観終わると、この手法はとても粋だなと感じさせられます。
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それぞれの作品で、グラフィックが深く交わり、展開されていく様はとても刺激的でした。今回紹介した作品は、ストリーミングサービスでも徐々に配信が始まっていますのでご覧ください。また是非映画館にも足を運んでみてください。最後までお読み頂きありがとうございました。